片流れ屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ③

片流れ屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ③

傾斜した屋根面が1つあるだけのいわゆる「片流れ」屋根が、依然として人気を集めていますね。新築住宅で採用される屋根の形状として、切妻に次ぐ第2位の座を寄棟から奪い取ったのも、我々としては記憶に新しいところです。

デザイン面、コスト面、人気の理由はさまざまありますが、やはり一番大きいのは、太陽光発電の全量買取制度にあったのではないでしょうか。

10kw以上の発電設備であれば、生成した電気をすべて買い取ってもらえる。自宅で使う分は電力会社から改めて購入し、その差額だけで約10年で減価償却できる。設置自体に補助金を出す自治体もあり、大容量の発電装置を置ける屋根として、片流れ屋根が一気に脚光を浴びました。

東北の震災以降、発電に対する国民の意識が大きく変わったのも理由の1つとしてあるでしょう。大気汚染も核廃棄物も出さない安全な電気を自宅の屋根で作れるというのは、国が積極的に後押ししたこともあり、本当に瞬く間に浸透しました。

環境にも財布にもやさしい。片流れ屋根の流行は、太陽光発電と切っても切れない関係にあると言えるでしょう。

片流れ屋根とは

上で述べたように、太陽光による自家発電という、はっきりとした目的を持った層に支持される片流れ屋根ですが、人気の理由はそれだけではなく、今般の住宅事情や、特に若い世代のニーズに対応している点も挙げられます。

片流れ屋根のメリット

まずは、片流れ屋根が評価されるポイントにしぼって、お話をさせていただきます。

デザインがシンプルでおしゃれ

シンプルすぎて単調、面白くない、そう評価されることもあった片流れ屋根ですが、デザインが改良され、人目を引くようなシャープな印象の住宅が増えてきました。

敷地がそれほど広くない場合、最近は若い世代を中心に、あえて庭を作らず、敷地いっぱいに箱形の家を建て、スペースを最大限活用しようとする傾向にあります。

かつて庭が豊かさの象徴とされた時代もありましたが、庭いじりを愉しむより、面倒と感じる人が増えたのもあるでしょう。体裁を重んじるより、居住スペースを少しでも広くしたい。

そうした箱形の住宅にもっともマッチするのが「片流れ」屋根です。単調になりがちなフォルムに、スパッと斜線を引いて動きをつける。見る角度によって家の印象が変わるのも面白いところです。

開放的な屋内空間

切妻や寄棟のように小屋組みを作り込む必要がありませんから、それだけ屋根裏のスペースを自由に活用できるのも人気のポイントです。

高い位置に窓を付け、天井の高い、開放的で明るい居住空間を演出できます。

外から見るとシンプルで地味だけど、一歩中に入ると個性的で遊び心にあふれている。若い人たちの家づくりに接すると、私たちは外見を気にしすぎていたのかな~と痛感させられます。

施工もリフォームも低コスト

家を作る上で、屋根というのはやはり手がかかりますし、気も使います。その点片流れ屋根は、構造がシンプルなので工期も短縮できますし、費用もぐっと抑えられます。

極端なことを言うと、「これ以上簡単にはできない」というぐらい簡単な形状の屋根なので、コストをできるだけ抑えたいという方にはおすすめですね。

太陽光パネルを設置しやすい

これは最初に書きましたが、南面屋根でがっつり発電するには最適の屋根です。傾斜をフラットに近づけることで、南面でなくても十分な日射を取得できます。太陽光発電を基本線と考えるなら、ファーストチョイスと考えていいのではないでしょうか。

片流れ屋根のデメリット

当節流行中の片流れ屋根ですが、それではどういったデメリットがあるのか、以下に見ていきます。

最初に書いておきますが、浸透してまだ間もない比較的新しい屋根形態ですので、まだまださまざまな問題点が指摘されています。しかし、同時にそれは、施工のノウハウや部材の機能など、著しい進歩が見られる部分でもあります。

業者を選ぶ際は、長所だけでなく、片流れ屋根の欠点についてもきちんと説明ができて、その対策にも通じているかどうか、そこを判断基準にすると間違いがないと思います。

壁面量の増加

倉庫のような、箱形ののっぺりとした外観になりがちです。道路や隣家との距離、あるいは外壁の色などによっては、周囲に圧迫感を与えかねません。色を明るくしたり窓を増やすなどして、環境になじませる工夫も必要です。

屋根や外壁の負担が大きい

日射や雨風をまともに浴び続けるため、他の屋根形態に比べて、外壁の劣化が早まる傾向にあります。また、屋根に落ちた雨水が集中するため、雨どいの消耗も激しくなります。こまめな点検と早めのメンテナンスが必要です。

実は高い雨漏りのリスク

屋根が一面のみで、屋根面と屋根面の接続もないので、雨漏りは少ないだろうと思われがちですが、実は、雨漏りによる修理依頼が近ごろもっとも多いのがこの片流れ屋根です。

寄棟や切妻の屋根が傘だとすると、片流れの屋根は、雨が降ってきたけど傘がないのでとりあえず持っていた雑誌を頭の上にかざした、ような状態です。体=外壁は普通に濡れますし、濡らしたくない頭部も、雑誌のふちを伝って流れ落ちてくる雨粒によって少しずつ濡れてしまいます。

これが、片流れ屋根の雨漏りでもっとも事例の多い、棟部の雨漏りの正体です。伝い水と言って、野地板の裏面を伝って雨水が建物内に浸透するわけです。片流れ屋根は、外周が無防備になりやすく、施工が甘いとケラバからも漏水の危険もあります。

ただし、透湿ルーフィングを巻くなど、対策次第で十分防げます。「片流れは雨漏りしない」と無責任に言い切る業者よりも、「リスクはあるがこういう方法できちんと対応できます」と説明してくれる業者を選ぶようにしましょう。

日射取得が少なくなることも

メリットのところで書いたことと矛盾しますが、これには条件があります。

片流れ屋根は、通常は日射の取得に向いた屋根ですが、住宅密集地などの北側斜線制限がある場所では、高さを抑えるため北側に屋根を向けるしかなくなります。そうすると、傾斜によっては冬期の日射がゼロになることもあり、水気が蒸発しにくくなって、木材が腐るなどの被害が発生します。

高さ制限がある地域では、当然発電量も少なくなり片流れにするメリットがなくなりますので、再検討されることをおすすめします。

換気がむずかしい場合も

構造が単純なので空気の流れを作りやすそうですが、高低差が少ないため実は風の通りがあまりよくありません。切妻屋根のように構造的に空気を循環させづらいので、妻換気や換気棟など、小屋裏換気を徹底させる必要があります。

まとめ

最近見かけることが多くなった片流れ屋根ですが、太陽光発電、低コストなど、選ぶ方の目的がはっきりしているのが特徴です。特に若い方が好む、モダンな外観の住宅に合う、というのも人気の理由でしょう。

昔ながらの大工仲間などからは、「あれが屋根かね」と嘆く声も聞こえてきますが、できるだけ簡単に、便利に済まそうというのは、時代の要請と言えます。

どんな場合でも、家にとっての最大の使命は、そこに住む家族のしあわせを守ることです。片流れ屋根の下の、明るく開放的な家族の暮らしぶりを見れば、どんな昔気質の頑固な大工でも目尻が下がります。

モデルルームなどで、一度屋内の様子をご覧になってみるのが良いでしょうね。

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