招き屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ⑤

招き屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ⑤

今回は、このところ私の周りで話題に上ることが多い「招き屋根」をご紹介しようと思います。

「招き」という名称は、屋根の形が人に「おいでおいで」するときの手の形に似ていることから付けられたもの、だったと思います。人を呼ぶ、福を呼ぶ、ということで、とても縁起の良い名前です。

最近脚光を浴びつつある屋根の形状ですが、招き屋根単体というより、これに差し掛け屋根を組み合わせたものが主流となっています。なので、「おいでおいで」の手の、関節が外れたような状態になってしまいますので、2つを統合した新しい名前がそのうち出てくるかもしれません。

この屋根は、はっきり言っておすすめです。作り手側の評判も上々です。これから家を建てる、あるいは大がかりな屋根のリフォームを検討している、そういった方には、ぜひ頭に入れておいていただきたいですね。

詳しくは後述しますが、簡単に言うと、切妻と片流れのメリットを併せ、デメリットを補い合った形状です。当節最も理にかなった屋根の1つと言えるでしょう。

招き屋根の特徴

百聞は一見にしかずということで、まずは下の写真を見ていただきたいのですが、

写真の左側、2階が茶壁のお宅が、典型的な招き屋根と差し掛け屋根の複合タイプの屋根になります。ここでは総称して招き屋根として話を進めます。

形状は切妻屋根の一種です。2つの同形の屋根面を棟でつなぐのが一般的な切妻ですが、招き屋根では、その片方を長く、片方を短くするのが特徴です。南面の屋根を長くすることで、片流れ屋根の特徴やメリットを生かしつつ、折り返しを付けることで、そのデメリットを補うことができます。

片方の(ほとんどの場合は短い方の)屋根には段差を設けます。本来の差し掛け屋根とは少し異なりますが、姿が似ているので、便宜上ここではこう呼びます。

2つの屋根の段差の部分は壁でつなぎます。ここがこの屋根の肝です。その利点は後述します。「屋根の形を選ぶ」シリーズを順に読んでこられた方ならピンと来るはずですが、この屋根の唯一の弱点もここになります。

招き屋根のメリット

それでは、たくさんある招き屋根のメリットを順に見ていきましょう。

換気と断熱性に優れている

切妻屋根のメリットのコーナーでも説明しましたが、屋根裏に高低のある広いスペースを確保できるので、空気の流れを作りやすく、湿気による建材の劣化を防ぎます。

軒下換気、棟換気、妻換気、すべての方法を採用できるのも大きな利点です。

断熱性にも優れており、夏は涼しく冬は暖かな、理想的な住環境が得られます。

耐風性の向上

2つの段違いの屋根が互いに支え合う構造で、しかも風の影響を分散できるため、耐風性は切妻屋根より格段に上がります。

壁面積の縮小

切妻屋根のデメリットの1つとして、屋根面のない妻側の外壁の劣化が早まることを指摘しましたが、招き屋根では、片側の屋根を下げることで、外壁の面積を減らせるため、外壁が受けるダメージを緩和できます。

また、切妻の妻側はのっぺりとした印象になりがちですが、招き屋根ではデザインに動きを付けやすくなります。

低コスト

構造がシンプルなので、施工も、その後のメンテナンスやリフォームも、費用を抑えることができます。

採光 広々とした室内

屋根と屋根の段差部分に壁を設け、そこに採光用の窓を設置することで、自然光を取り入れて室内を明るくすることができます。

また、片流れ屋根のメリットでも紹介しましたが、屋根裏の空間を利用することで、天井の高い動きのある室内空間を演出できるのも魅力です。

太陽光発電との相性

切妻屋根の場合、建物の規模や向きにもよりますが、太陽光発電パネルを設置する十分なスペースを確保しづらい、というデメリットがありました。その点招き屋根では、南面の屋根を長くすることで、片流れ屋根の最大のメリットを取り入れて、切妻のデメリットを解消することができます。

住宅密集地の高さ制限対策として

都心部などの住宅密集地では、隣地との間に高さ制限が設けられる場合があり、設計の際に頭を悩ませるところです。ところが招き屋根では、地面から斜線を引いて高さを区切るため、その制限線に屋根面を合わせることで、その下の空間も最大限に活用することができます。

これも、片流れのデメリットをうまく解消したアイデアと言えるでしょう。

招き屋根のデメリット

続いて、招き屋根のデメリットを見ていきましょう。

雨漏りのリスク

屋根と壁の接続部分は雨漏りのリスクが高くなる傾向にあります。丁寧な施工とこまめな点検・メンテナンスが必要になります。

ただし、施工慣れした業者はノウハウを持っていますし、その点を特に質問して、方法や使用する部材についてきちんと説明してくれる業者を選べば、間違いないと思います。

雨漏りのケアさえきちんとできれば、他にこれと言ったデメリットは見当たりません。

しいて言うならもう一つ・・。

アンバランスなデザイン

2つの屋根の形や位置が異なるため、たとえば方形屋根のような、完全に均整の取れたデザインにはなりません。シンメトリーじゃないと落ち着かないという人には向いていませんね。

施工件数が増えるにつれ、デザイン面の工夫や改良も日々進んでいます。施工事例をたくさん見て、これだと思うものを選ぶようにすると良いでしょう。

あまり奇抜なものにせず、上の写真のお宅のようにすっきりとした外観を保つことが、長く快適に暮らす秘訣だと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今回は、今後が注目される招き屋根について解説しました。

家は、毎日当たり前のように使うものです。日々の暮らしによって磨かれ、その形や機能は常に変化し、進化を遂げています。

太陽光発電の意識の高まりから、まず片流れ屋根が人気となり、今度はその問題点を改善する形で、招き屋根と差し掛けを融合した新しい屋根が使われ始めました。

伝統や安定、便利さ新しさがせめぎ合う中で、こうして新しい家の形が次々あらわれてくる。

私のように、家や屋根を眺めているだけで愉しいという人間が一人でも増えてくれたら、こうして記事を書く甲斐もあったと言えるのでしょう。

 

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