寄棟屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ②

寄棟屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ②

前回の切妻屋根に続いて、今回は「寄棟(よせむね)」式の屋根について、その特徴やメリットデメリットを解説していきます。

寄棟屋根の特徴を一言で、といわれたら、私なら「安定感」と答えますね。見た目はもちろん、構造的にもどっしりとした落ち着きがあり、瓦葺の和風建築は言うまでもなく、いまどきの洋風建築に合わせても、建物としてのまとまりが際立ちます。

頂部に大棟があるのは切妻と同じですが、4つの屋根面を接続するために、大棟から斜めに下り棟と呼ばれる棟が四方に伸びているのが特徴です。屋根面の2つは台形、2つは三角形になります。4面の屋根でがっちり守るので、家を長く保持するのに適した構造と言えるでしょう。

残念ながら、国内で採用される屋根の形状としては、切妻に次ぐ第2位の座を片流れ屋根に明け渡してしまいましたが、一定数の人気は常に維持し続けています。そのあたりの理由についても触れていければと考えています。

寄棟屋根の特徴とは

寄棟では、建物の全方向に屋根が向いているため、「方角を選ばない」というのも大きな特長です。土地がそれほど広くなかったり、お隣との関係性だったり、家を建てる際には向きの制約が少なからずあるものです。その点寄棟は、どこから見ても屋根と壁のバランスが均一に保たれるので、見られる方向に腐心する必要がありません。

また、都心など住宅密集地においては、建物の北側の高さを制限する建築基準法の「斜線制限」という条項があります。隣地との境界線から斜線によって高さを区切るため、すべての面に屋根の傾斜がある寄棟は、この法律に則って建築設計をする際とても有利になります。

さて、最初に少し難しい話をしてしまいましたが、ここからは、寄棟のメリットとデメリットを、分かりやすく解説していこうと思います。

寄棟のメリット

「安定感」は見た目だけではありません。寄棟は、構造的にもたくましく、建物自体が重厚なものになります。軽量の屋根材を使うことで、耐震性においても最高ランクを達成できるでしょう。

格調が高い

寄棟造りの家は、整然とした外観になり、派手さはありませんが、長年住んでも飽きることがありません。

向きを選ばず、どこからでも屋根が見え、しかも屋根の連なりを一望できるため、建物の奥行きがうまく表現されます。広さ=豊かさを印象付けてくれます。

装飾性を抑え、質実でありながら、豊かさも感じさせる。総じて格調の高い家になります。

耐久性が高い

全方位的に屋根が守るため、建物の劣化を遅らせられます。切妻は妻側の外壁が痛みやすくなりますが、寄棟の場合そうした守りの手薄な箇所は発生しにくいです。端正な外観とはうらはらに、要塞のような守りの堅さも兼ね備えています。

また、4つの屋根面が守りを分担しますので、雨風や雪の影響も分散され、それぞれの負担量が減り、結果として屋根も建物も長持ちする傾向にあります。

家を守ることに特化した構造と言え、長く住むことを前提にするなら、もっとも優秀な屋根と言っても過言ではないでしょう。

抜群の耐風性

寄棟は、突風や強風に強いことでも知られています。屋根の斜面が風を切る形になるので、他の屋根のようにまともにあおられることがありません。台風などでは吹き返しによって被害が出ることがありますが、寄棟の場合あらゆる方向からの風に対応できる点も強みです。

寄棟屋根のデメリット

見た目が端正で、要塞のように堅固。それでは、寄棟のデメリットにはどのようなものがあるでしょう。

コストが高くなる

新築でも、メンテナンスやリフォームでも、全体的に高コストになりがちです。工期も人手もかかります。構造が複雑になるぶん仕方がありません。屋根の接続部分に特有の材料も必要になります。

しかし、長い目で見た場合の耐久性や寿命を考え合わせると、どちらが得であるかは判断の難しいところです。「寄棟こそリーズナブル」とおっしゃる方もいて、理がないわけではありません。

雨漏りのリスク

大棟と下り棟、最低でも5ヵ所で屋根面を接続させる必要があります。接続が1つしかない切妻や、1つもない片流れに比べると、雨漏りのリスクは高まります。

屋根の面と面の正しい接続には知識と経験が必要になります。その点をしっかり踏まえて業者選びをすることが大切になります。裏を返せば、しっかりと施工さえされていれば、雨漏りに対してそれほど神経質になる必要はありません。

換気がむずかしい

雨が多く湿度の高い日本においては、これが一番の問題もしれません。

切妻や片流れに比べて、屋根裏のスペースが狭くなり(小屋裏換気という効果的な手法が使えない)、開放的ではないため、空気の流れを作りにくいのが難点といえます。結露等により生じた水分が、日当たりの悪い北側に移動して、木材を劣化させる場合があります。地域によってはシロアリの心配もありますね。

湿気を気にする方はここが悩みどころでしょう。

ただし最近は、新しい換気の方法や機材も開発されていますので、施工を担当する業者に相談してみることをおすすめします。そうした点に対応可能かどうかも、業者選びの基準にするといいかもしれませんね。

ソーラーパネルの設置に不向き

建物の規模にもよりますが、寄棟の住宅では、ひとつひとつの屋根面が小さくなる傾向にあり、しかも4面のうち2面は三角形となるため、ソーラーパネルの設置には向きません。

最近は狭い場所でも設置できるコンパクトなソーラーパネルが開発されていますが、屋根の複数面にパネルが所狭しと並んでいては、せっかくの整然とした外観が損なわれてしまいます。

本格的な太陽光発電をお考えの方には頭の痛い問題になります。

まとめ

こうして見てみると、寄棟式の屋根は、メリットとデメリットがはっきりしているのがお分かりいただけると思います。万能の切妻、個性の寄棟、と言ったところでしょうか。

それだけに、住宅の強度や耐久性、落ち着いた雰囲気などを重視される方は、寄棟に強い思い入れを持たれるのだろうと思います。

一方で、そこまで寄棟にこだわりがないのであれば、切妻を選んでおくのが無難かもしれません。

同じ日本でも、地域によって気候や環境は異なります。換気の問題さえしっかりクリアできれば、「家を持つなら寄棟」と根強いファンを持つ寄棟屋根を、一度検討してみても良いのではないでしょうか。

 

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