自宅の屋根をどうするかと検討する場合、皆さんが考えるのは色とか素材のことがメインで、形を気にする方はそれほどいらっしゃらないのではないでしょうか。ほとんどは施工業者に任せ切りになってしまうと思います。
それも無理はありません。なぜなら、現在日本の住宅の約半分が「切妻」式の屋根を採用しているからです。いわゆる三角屋根と呼ばれるごくごく一般的な形状です。
屋根材のメーカーも、この切妻屋根を前提に商品を製造販売しています。したがって、こちらから特に指定しない限り、屋根は切妻式になると思って間違いありません。
多数に選ばれるのには理由があります。切妻屋根は何しろ万能です。弱点もありますが、コスト面でも優秀、世界的に見てもベーシックなスタイルと言えます。
今回からは、シリーズ形式で屋根の形状について考えてみたいと思います。第1回目ということで、まずは屋根の王様、この切妻屋根について取り上げます。
世界的にもスタンダードな切妻屋根
モンゴメリというカナダの作家さんが書いた、有名な「赤毛のアン」という児童文学があります。私もこう見えて昔から本が好きで、姉の本棚から拝借して読んだ記憶があります。この「赤毛のアン」の原題が「Anne of Green Gables」と言って、直訳すると「緑の切妻屋根のアン」となるんですね。
切妻屋根が世界中でそれだけ支持されるのには、どういった理由があるのでしょう。
切妻屋根のメリット
切妻屋根のメリットはたくさんありますが、なんといってもコストが安くで済む点と、日本の場合は雨漏りに強い点があげられます。
以下その理由を説明していきます。
屋根の形状がシンプル
雨漏りの発生リスクが高まる箇所というのは、屋根の複数の面をつなぎ合わせた部分になります。特に「谷」と呼ばれる低い位置での接続部や、屋根面と壁との接続部分が危険ポイントになります。
その点切妻屋根では、2つの屋根面を屋根の一番高い位置=棟(むね)だけでつなぐ構造になりますので、棟瓦を使うなどして、雨水の侵入を高い確率で防ぐことができるわけです。
棟自体も頂部の水平部分のみになるので、施工の手間が抑えられます。また、軒も2面のみに限定されるので、軒先に設置する雨どいも短くて済みます。
構造がシンプルであるため、使用する屋根材の量も少なくて済み、施工にかかる日数や人員を抑えられます。材工(トータルコスト)が低く抑えられ、将来のメンテナンスやリフォームについても同じことが言えます。
換気性に優れている
切妻屋根においては小屋と呼ばれる屋根裏のスペースを広く確保できるため、軒天換気と棟換気の併用を行いやすく、また妻側のガラリ換気も有効活用できるため、建物全体の換気を良好に保つことができます。湿度の高い日本の気候に適した構造と言えるでしょう。
ソーラーパネルを設置しやすい
大きな屋根面積を確保しやすいため、太陽光発電に向いています。南向きが理想ですが、東西向きでも設置パネル数を増やすことで十分な発電量を確保できます。
すべての屋根材を使用できる
構造がシンプルで、しかも広く普及しているため、ほぼすべての屋根材を使用できます。選択肢が豊富にあり、自分好みに家をカスタマイズしたい人にも向いていますね。和風洋風どちらの家にも合うのも嬉しいところです。
切妻屋根のデメリット
切妻屋根のたくさんのメリットを見てきましたが、ではデメリットはないのかと言われると、やはりどんなものにも弱点はあるんですね。
切妻屋根の弱点は「妻」にあり
弱い妻とは羨ましい。
切妻屋根の「妻」とは、棟の両側の面のことです。屋根がなく、三角形の外壁があらわになっていて、ケラバとも呼ばれます。
形状からも分かる通り、屋根に守られていないため、外壁が風雨にさらされる可能性があります。外壁や破風板など、それだけ劣化が早くなり、定期的なメンテナンスが必要です。放っておくと壁面からの雨漏りのリスクが高まります。
私も何度も目撃しましたが、切妻屋根の家で雨漏りが起きた場合、ほとんどが妻側の壁からの浸水でした。
しかしそれも、近年は技術の進歩で耐久性の高い材料や工法が編み出されていますので、以前ほどはっきりとした弱点とは言えなくなっています。
また、窓や外壁材を使って最近は「壁のデザインを愉しむ」風潮もあり、屋根面と壁面でメリハリをつけられるのも、若い世代からも支持されている理由のひとつだと思います。
一般的すぎて個性を出しにくい
切妻屋根は、どこにでもある普通の屋根の形状ですので、新鮮味はなく、他の家との違いは表現しづらいかもしれません。個性がないと言えばそれがデメリットになる場合もあると思います。
しかし、これは考え方だと思います。色や素材、また、傾斜の微妙な加減によっても、屋根の印象はかなり変えられます。正直なところ、あまり凝った形の屋根というのは、施工も大変ですし、飽きたからと言って簡単に変えることもできず、長い目で見ると、不便であることの方が多いような気がします。
長くその下で暮らすことを念頭に、当たり前だけど飽きの来ない、ベーシックな形状を選ぶことをおすすめします。
まとめ
そういえば「赤毛のアン」は、作者のモンゴメリが草稿を複数の出版社に持ち込んだものの、すべてに断られ、しばらく自宅の屋根裏部屋にお蔵入りになっていた経緯があるそうです。
最近はロフトと言いますが、天井が斜めの屋根裏部屋に子供のころ憧れた方もいらっしゃるのではないでしょうか。ロフトだと片流れのイメージもありますが、屋根裏部屋と言うとやはり切妻屋根の家ですね。
どこにでもあるベーシックな形ながら、換気がよく、雨漏りにも強く、経済的で、なにより見飽きることのない屋根らしい屋根という点で、切妻屋根は今後も一番人気の屋根であり続けることでしょう。