入母屋屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ④

入母屋屋根のメリット・デメリット 屋根の形を選ぶ④

今回は入母屋(いりもや)屋根について書いていきます。

都会ではめっきり見かけなくなりましたが、田舎へ行くと今でも「立派なお屋敷があるな~」と目を奪われることがあります。そういう邸宅の屋根は、九分九厘この入母屋式の屋根ですね。

日本のみならず東アジア全域に広まる伝統的な屋根様式で、格式の高さから主に神仏建築に用いられてきたという歴史があります。

前回ご紹介した片流れ屋根(片流れ屋根のページへ)が、低コストやシンプルさを追求した今どきの屋根だったのと対照的に、この入母屋屋根は、切妻と寄棟の長所をダイナミックに合体させた、スケールの大きな屋根、ということになりましょうか。

入母屋屋根の特徴

入母屋屋根の上部は、切妻式のいわゆる三角屋根です。しかし下部に目を向けると、大型のひさしのように四周に張り出した部分は、寄棟式になっています。いわば両者のメリットを大胆に「重ねて」しまった形状です。

日本の瓦ととてもよくマッチしますが、なにしろ構造が複雑で、施工に高い技術を要するため、瓦屋根の減少にもともない、後継不足が深刻になっています。施工はもちろんメンテナンスやリフォームも、まずそれができる職人を探す(確保する)のに苦労するというのが現状です。

それでは入母屋屋根は、このまま衰退していってしまうのでしょうか。業者の中にはやれやれと思う者もいれば、残念と思う者もいます。しかし近ごろは、日本瓦とワンセットと思われていたこの入母屋屋根に、スレートやガルバリウム鋼板などの金属屋根を合わせるのが静かなブームになっています。入母屋の火を消さないためにも、今後の動向が気になるところです。

入母屋屋根のメリット

それでは入母屋屋根のメリットから見ていきましょう。

最強クラスのタフネス

どっしりとした風格と安定感があります。見た目もそうですし、構造的にも非常にしっかりしていて、少々の雨風ではびくともしません。

耐風性は特に高く、あらゆる方角からの強風にも動じません。断熱性も高く、屋内の居住空間を快適に保ってくれます。

雨仕舞もしっかりできるので、降雨による劣化を遅らせることができます。

日本の風土、環境になじむ

長い年月をかけて同化してきた強みと言いましょうか、日本の風土や環境にしっくりなじむ、というのも大きなメリットと言えるでしょう。私は、個人的には田園地帯の入母屋が好きですが、閑静な住宅地や、古くからある町屋などでも風情のあるお宅を見かけることがあります。

単に風景になじむだけでなく、一歩進んで、その「地域の景観を作る」ことに一役買っている、と言っても言い過ぎではないと思います。

瓦の美しさがきわだつ

重層構造で変化に富んだ形状となり、瓦の並びに動きが出て、見飽きることがありません。四季折々の楽しみがありますし、晴れた日も雨のも良いですね。瓦に落ちる雨音を聞きながら、縁側に腰かけてぼんやりと時を忘れる。そういう時間の過ごし方をいつかはしてみたいものです・・・。

換気が良い

切妻屋根の長所を取り入れているので、高低のある広い屋根裏を使って、空気の流れを効果的に作り出すことができます。寄棟の安定感を取り入れつつ、換気が悪いというその弱点を、うまく補っているわけです。

入母屋屋根のデメリット

切妻と寄棟の長所を取り、弱点を補い、いわゆるいいとこどりをしているわけですから、デメリットはなさそうに思えますが、さすがにそうはいきません。

自然環境が家屋に及ぼす作用は、実に強力かつ複雑で、1つの屋根でそのすべてに対応するのは困難です。

入母屋屋根のデメリットは、端的に言うとその構造の複雑さにあります。

コストがかかる

当然そうなりますね。入母屋を扱える大工や瓦職人が減ったことで、これを確保するための単価も高くなります。材料費も高くなります。工期も長くなります。メンテナンスやリフォームについても同じことが言えます。

入母屋屋根は、相応の覚悟がなければ手を出しにくいオプションと言えるでしょう。

雨漏りのリスク

複雑な構造を持ち、合わせが多くなるため、そのぶん潜在的な雨漏りのリスクが生じます。緻密な設計と施工が肝心で、大工や職人の腕が問われます。不慣れな業者に安易に任せるのは避けるべきでしょう。

耐震性に不安

2つの屋根を重ね合わせた形状ですので、重さも相当なものになります。地震の揺れは、屋根の重さに応じて大きくなりますので、建物自体の強度がないと屋根を支え切りません。大きな地震の後、古い入母屋の屋敷が倒壊し、屋根だけがそのままの形で地上に残っている、そういう光景を見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

対策には2通りあります。1つは、重い屋根を支えるだけの強さを建物自体に持たせること。もう1つは、上でも書いたように、金属屋根を設置することです。入母屋のその他のメリットや形を採用したく、瓦にそれほどこだわりがないのであれば、スレートやガルバリウム鋼板で屋根を葺いてみるのもいいかもしれません。

まとめ

ここまで見てきた通り、入母屋屋根というのは、切妻と寄棟の長所を組み合わせた合理的な屋根である反面、構造が複雑すぎたり重すぎたり、はっきりした弱点も併せ持っていることがお分かりいただけたかと思います。

重い。見た目が重厚。伝統・・・。軽さを重んじる昨今の風潮とは根本的に相いれない存在なのだろうと思います。ただしそれだけに、流行に左右されない一定のコアなファンが存在するのもまた事実です。

神社仏閣などの歴史的建造物の保守の点からも、やはりある程度の需要があって、大工や職人の質が保たれる、というのが理想なのではないでしょうか。

 

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